9条連ニュース/115号 リレートークNO.3

「戦時状態は大統領への白地小切手とはならない」
樋口 陽一

世界じゅうで、いろんなことが起こっている。残念ながら、日本のメディアは伝えてくれない。例えば、である。フランスの日刊紙『ル・モンド』は、その一面トップ全段ぬきの見出し記事で、アメリカ合衆国最高裁の、六月二八日の判決を速報した。アフガニスタンで捕えられた「敵性戦闘員」からの訴えについての判決である。私のいつものやり方だが、この新聞を手がかりにして、他の国の新聞記事などに遡って調べものをする。日本の新聞はといえば、いま手許にあるのを開くと、全面広告を除く二六ページの記事面のうちスポーツが五ページで外報は一ページ半だけ、甲子園やオリンピックが始まればこの比率はもっと変わる(念のため、私はスポーツそのものを敵視しているわけではない)。

さて、先日のアメリカ最高裁判決三件のうち、二件が、世界じゅうの目を引きつけている。ひとつはアメリカ合衆国市民権をもつ者( Hamdi対Rumsfeld)、ひとつはアメリカ国籍をもたない者(Rasul対Bush)を原告とするものだった。後者はキューバのアメリカ租借地グアンタナモという法の空白地帯におしこめられてきたのだった。

まだ判決文全体を読んではいないので正確を欠くかもしれないが、なるべく早く日本の人たちにも知ってもらいたいので、私の理解した限りでのことを紹介したい。

裁判判決の常として、一つのケースで一つの論点しかないわけではない。だから、九人の裁判官たちの「意見」の分かれ方も単純ではない。二件とも、法廷意見と反対意見は六対三だったが、Hamdiケースでは、クラレンス・トマスを除く八裁判官が、アメリカ市民の二年にわたる拘束の状態を、憲法そ の他の法令から見て、はじめから、そうでなくとも途中から違法となった、 と判断している。オコナー(女性判事)の執筆にかかる法廷意見は、ふつう「保守派」に分類されているレンキスト長官を含めた六裁判官の支持を得て、原告らは適正手続の保護をうけ、公正な判断を求めることができるとした。そのうち二裁判官は、拘束そのものを違法としている。「エッセンシャルな憲法上の約束は、浸蝕されてはならない」とし、政府の主張を「唯一の統治部門に権力を集中するのに仕えるだけ」と断じた法廷意見は、「戦時状態は大統領への白地小切手とはならない」という言葉とともに、歴史に残るだろう。外国人の被拘束者についてのRasulケースではスチヴンス法廷意見が、彼らにも適法手続きが及ぶと裁定した。

人権擁護の観点からすると残された論点もあるのだが、ブッシュ政権にとって痛撃となる司法判断であることは間違いない。それにしてもマイケル・ムーアにいわせると「アホでマヌケなブッシュ」でも、この司法判断に対して、われわれの首相とは違って「わからんねー」とは言わなかったようだ。

(ひぐち よういち 早稲田大学教授)

※編集部注―「白地小切手」とは、金額の欄を空欄にしてサインだけした小切手。「いくらでもあなた任せ」ということになる。

戻る

 

 

 9条連ブックレット


「新聞報道に見る 沖縄の
米軍基地と住民」


「戦争のないもうひとつの
世界は可能か」



平和のために
−伊藤成彦講演から



「平和を育てよう」
−藤井治夫講演から



「第九条が輝く21世紀を」


「憲法9条ー護憲か廃憲か」



平和のために軍備と戦争の
構造を学ぶ
「世界を見つめる」

 9条連グッズ


9条連
“エコバッグ



タビックス

 
第9条 【戦争の放棄,軍備及び交戦権の否認】
1、日本国民は,正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し,国権の発動たる戦争と,武力による威嚇又は武力の行使は,国際紛争を解決する手段としては,永久にこれを放棄する。2 、前項の目的を達するため,陸海空軍その他の戦力は,これを保持しない。国の交戦権は,これを認めない。